「朝の記憶」牛乳箱のある風景・平成十二年 横溝健志

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○○かって、日本の街の朝は、新聞配達と競うようにして隈無く各戸に瓶入 りの牛乳が配達されていたように思う。だから、どの家でも郵便受けと新 聞受け、そして木製の牛乳箱がひと固まりになって戸口の脇を飾り、それ ぞれの街の居住まいを形づくっていたのではないだろうか。いま、そんな 街は節操なく新しい建材の住宅に変わり、牛乳も紙パックをスーパーマー ケットで買うようになって、あの木箱を見かけることも少なくなった。
  それでも、よく知られた乳業会社や土地の牛乳屋の屋号が刷り込まれた 粗末な木箱が、戸口に無造作に釘止めされているのを見かける街がある。 それは玄関とは限らず、立派な門構えであったり裏木戸であったりするが、 立派な門構えであっても特製の上等な箱だったりはしない。新聞や郵便受 けもそうなのだが、公の通りと個人の領域との接点でどんな姿でいたらよ いのか戸惑っているようにも見える。そんな奥ゆかしいたたづまいも見ら れるが、家に納まりきれなくなった家財が通りにはみだして牛乳箱の周辺 を賑やかにしている、そんな気安い路地がまだ日本にはあるのだ。

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○○だから、人の生活に興味があるわけではないのだが、牛乳箱をカメラで 覗けば、否応なく人々の暮らし振りが凝縮されて構図となり、気取りのな い暮らしの断片に触れて優しい気持ちにならないわけではない。しかし、 他人の家の玄関先で、厚かましく三脚を開いて大げさなカメラを向けるの は、木箱そのものの姿に惹かれるからである。もう役目を終えて風雨にさ らされ、朽ちていくだけのモノと作為のないその周辺の有り様は、四角の フレームに切り取ればもう暮らしでも何でもなくて抽象な造形の世界だと 思ってしまう。
  そんな風景との出合いを期待して列車の途中下車をくり返すのは、まだ 私が幼かった頃、目覚める前の浅い眠りの中で、一合壜のカタカタとふれ あう牛乳配達の重い自転車の気配を感じたような気がして、そんな遠い朝 の記憶をたぐり寄せる旅であり、これはその記録である。

参考文献
「近代食文化年表」小菅桂子著 雄山社
「食生活世相史」加藤秀俊著 柴田書店
「図説・明治事物起源事典」湯本豪一著 柏書房
「わが乳業記」国生義夫著 明治乳業
「東京牛乳物語」黒川鐘信著 新潮社
「月刊魔法瓶18号”牛乳ビンは望遠鏡”」さえきあすか著 弓屋かえる堂
「牛乳と日本人」吉田豊著 新宿書房
「日本乳業史」日本乳製品協会
「日本乳業史(第二巻)」日本乳製品協会
「雪印乳業史」雪印乳業
「純白の軌跡-牛乳百年のあゆみ-」長崎亀人著 市民書房
「日本乳業評論史」宮澤資政編 乳業と生活社
メッセージ
'98年の第1回展覧会では、それまで写しためたものからプリントで54点を展示した 。その内の42点を含めて、ここでは一回目として79点の写真を掲載している。 今回の第2回展覧会は、'99、'00年の取材フィルムのプリントから57枚で構成した。 この2年間はデジタルカメラを併用したので、ホームページにはデジタルカメラで撮 影したものに限って60点を掲載している。なお、前回のものから7点を削除している 。
引き続き調査を進めたいので、情報をお寄せいただければ嬉しい。

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